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硫化水素の危険性について|国内における事故例や防止策なども解説

独特の腐卵臭でお馴染みの硫化水素は火山や温泉地帯の自然界や汚水のタンクなど私たちの生活の至る所で発生している気体です。

理科の時間に匂いを嗅いだ経験がある人もいるのではないでしょうか。

しかし、硫化水素は強い毒性や爆発の可能性、腐食性など、重大な事故につながる危険な気体でもあります。

この記事では硫化水素の危険性や事故事例のほか、事故防止に必要な施策について説明していきます。

硫化水素とは

硫化水素とは、2個の水素原子と1個の硫黄原子からなる気体で、硫黄化合物の中で最も簡単な物質です。

硫化水素の自然界での発生源は、火山や温泉地帯において、地下のマグマにとけている硫化水素が分離して、噴気孔から大気中に放出され発生します。

人工環境での発生源は、し尿や汚水を貯蔵するタンクや管路など。

空気が供給されない汚水管などの環境下で汚水などが長時間滞留すると、汚水が嫌気性細菌によって還元されて硫化物が生成し、これが空気に触れることで硫化水素が発生します。

硫化水素の特徴

硫化水素は空気より重く、無色の水溶性かつ有毒な気体です。

また、腐敗した卵に似た特徴的な強い刺激臭があり、目や皮膚、および粘膜を刺激します。


この強い刺激臭があることから、「不快なにおいの原因となり、生活環境を損なうおそれのある物質」として、悪臭防止法施行令 第1条で「特定悪臭物質」に指定されています。

また硫化水素は、多くの金属と反応して黒く変色させてしまう性質があるので、硫化水素を含む温泉の入浴においては、時計やネックレスなどの金属製アクセサリーには注意が必要です。

一方で、有機合成における還元剤や金属精錬、および農薬や医薬品などの原料としても有効活用されている側面もあります。

硫化水素の危険性について

硫化水素は有効に活用される側面もありますが、一歩間違えると死亡事故が発生しかねない危険なガスでもあります。

危険性は主に

  • ①強い毒性
  • ②爆発の可能性
  • ③強い腐食性

の3点があります。

1つずつ見ていきましょう。

危険性①強い毒性

硫化水素の危険性のひとつに、強い毒性があります。

硫化水素中毒の症状は、肺機能不全や目の不調などで、急性毒性では目や呼吸器が刺激され、頭痛やめまい、腹痛を起こします。

高濃度の硫化水素に被爆してしまうと即死亡する可能性があり、非常に危険性の高い気体です。

また、硫化水素の液体が皮膚に触れると凍傷のほか、慢性毒性の場合には低濃度に繰り返し触れると血膜炎や光線恐怖、角膜水泡や催涙などの症状がでます。

一方で臭覚はある一定の濃さを超えると麻痺しやすいため、気づかずに高濃度のところに入ってしまう可能性があります。

そのため腐卵臭の有無で危険性の有無の判断はできません。

もし周りの人が硫化水素中毒を起こした場合には以下のように対応してください

  • 応急措置として患者を新鮮な空気環境に移す
  • 救急や消防に連絡
  • 呼吸困難をひき起こしている場合は酸素吸入や人工呼吸などを行う
  • 硫化水素が目に入ったり皮膚に触れた場合はただちに大量の水で15分以上洗い、汚染された衣服や靴を脱がせて医師を呼ぶ。

ただし、マウストゥーマウスの人工呼吸は、救助者まで硫化水素中毒になる可能性があるため、絶対におこなわないでください。

危険性②爆発の可能性

硫化水素は空気と混合された濃度4.3〜46.0 vol%の範囲であるとき、タバコのような火元があると爆発する性質があるので注意が必要です。

もし爆発してしまった場合の消火方法は、まずガスの供給を断ち、供給が断てない状況の場合は硫化水素が入っている容器とその周辺に噴霧注水して冷却させていきます。

また、一連の消火作業にあたる人は、火災・化学用保護衣と陽圧時給式呼吸器を着用してください。

一旦火災が鎮火したとしても、消火漏れがあるとそこから有害な可燃性ガスが広がり、再び火がつく可能性があるので注意が必要です。

危険性③強い腐食性

硫化水素は水と共存する環境下にある場合、金属の腐食を著しく進める性質を持ちます。

しかし、空気中には一定の水分も含まれているため、配管設備のように水に浸かっていない環境であっても、恒久的に腐食がない状態を保つことは難しく、定期的に交換することが勧められています。

一度配管内に水分が入ってしまうと、バルブや調整器などの内部から腐食が進み、予測不能な事故が起きてしまう恐れもあるので注意が必要です。

そのため、ボンベなどを交換する際にも不活性ガスで他のガスなどの不純物が流入するのを防止することが必要です。

硫化水素の致死量は?

硫化水素は、健康な成人が1日8時間、1週間40時間の正規労働時間において、影響がない最低限の許容濃度は10ppmです。

0.03ppmといった低い濃度においても、独特の卵の腐ったような臭い、いわゆる卵腐臭を感じます。

一方で、20~30ppmの濃度では嗅覚疲労で次第に臭気を感じなくなり、700ppm以上の高濃度では瞬間的に嗅覚が麻痺し、臭気を感じることなく意識を失って死にいたってしまいます。

国内における硫化水素による労働災害発生状況

酸素濃度欠乏事故や硫化水素中毒事故は少なからず毎年発生しており、犠牲者も出ています。

厚生労働省が発表しているデータからこれらの事故件数や犠牲者の数、および傾向を説明していきます。

酸素欠乏事故の事故件数および傾向

厚生労働省の公式HPによると、2021年の酸素欠乏症による労働災害は、2020年の10人から7人減って3件でした。

また、被災者は3人(2020年は12人)、そのうち死亡者は2人(2020年は8人)です。

2002年~2021年の過去20年間の労働災害は123件でした。

また、2002年から2021年の間に発生した事故の業種割合は製造業が最も多く、次いで建設業で、これら2つの業種で全体の6割以上を占めています。

硫化水素中毒の事故件数および傾向

2021年の硫化水素中毒による労働災害は、2020年と同じく6件であり、被災者は6名(2020年は3人)、そのうち死亡者は2人(2020年は6人)でした。

また、2002年から2021年の20年間の労働災害は71件で、2002年から2021年の間に発生した事故の業種割合は製造業と清掃業、建設業の順に多く、この3つの業種で全体の8割を占めます。

酸素欠乏症事故の環境要因

酸素欠乏事故や硫化水素中毒事故が発生要因として以下の5つがあげられます。

  • ・長期間使用されていない井戸の内部
  • ・ピットマンホールや槽、暗渠
  • ・発酵するものを入れたことのある醸造槽やタンク、むろなどの内部
  • ・長期間密閉されていた鋼製タンクや船倉等の内部
  • ・最後の油性塗料などで内部を塗装して間もない地下室やタンクなどの内部


まず、長期間使用されていない井戸の内部は、枯葉などの有機物が微生物によって分解される際に、酸素が消費されることで井戸内が酸欠状態になっている場合があります。

次にピットマンホールや槽、暗渠は雨水や湧水、などが滞留することで有機物が発生し、その有機物が分解される際に酸素が消費され、空間内が酸欠状態になり事故が発生する原因に。

また、海水が滞留した熱交換器や暗渠、およびピットや マンホール等の内部も魚介類の腐敗により硫化水素が発生する場合があり注意が必要です。

3つ目の発酵するものを入れたことのある醸造槽やタンク、むろなどの内部は、酒や醤油、およびもろみなど、製造において酵母等による発酵を行う際に酸素が消費されることで内部が酸素不足になります。

4つ目の長期間密閉されていた鋼製タンクや船倉等の内部は、経年劣化でサビが生じる場合があり、このサビが生じる際に酸素が消費されることで内部が酸素不足になってしまいます。

最後の油性塗料などで内部を塗装して間もない地下室やタンクなどの内部は、塗装面より発散した有機溶剤などにより、酸素濃度が低下する場合もあり注意しましょう。

硫化水素の発生および硫化水素中毒の環境要因

  硫化水素は埋立地など嫌気性環境下において硫酸塩還元菌が硫酸塩を還元することにより硫化水素が発生すると考えられています。

硫化水素が発生する条件は5つ挙げられます。

  • ・廃石膏ボードなど、硫酸カルシウムや硫酸塩を含む廃棄物があることで硫酸イオンが高濃度で存在すること
  • ・有機物が安定型廃棄物に付着・混入 することで、硫酸塩還元菌の炭素源が存在すること 
  • ・酸化還元電位(ORP)が-100mV以下の 嫌気性の環境であること
  • ・廃棄物や雨水の浸透などで、生物活動に必要な水分が存在すること
  • ・硫酸塩還元菌があること

の5つがあげられます。

これらの状況がそろい、酸素濃度計や硫化水素濃度計での計測を怠ることで、発生していることに気づかずに硫化水素中毒に陥ります。

また、硫化水素自体が空気よりも重いため、靴紐を結ぶなどでしゃがんだ場合に足元付近に溜まった硫化水素で中毒になる事案も。

そのため、硫化水素を計測する際は特に空間内の下部付近を注意して計測しましょう。

酸素欠乏症事故および硫化水素中毒事故の人的要因

酸素欠乏症事故および酸素欠乏事故の人的要因は酸素濃度等の測定を怠った事例が最多となります。

空気中の酸素濃度が18%未満の場合、または硫化水素濃度が10ppmを越えた場合は即座に対策が必要ですが、酸素や硫化水素の計測を怠ることでこれらに気づくことができずに事故の要因になります。


また、換気の未実施や不十分、および空気呼吸器等の未使用やガス流入の遮断措置の未実施、安全帯等の未使用や避難用具等の不備なども事故要因です。

さらに、事故の管理上の問題点としては作業主任者未選任が最も多く、酸素欠乏症等防止規則にある特別教育の未実施や作業標準の不徹底、および安全衛生教育の未実施または不十分や連絡調整体制の不備などは挙げられます。

また、立入禁止場所での禁止措置の不十分や安全衛生管理体制の不十分、および作業主任者職務の未実施なども挙げられるでしょう。

このように、酸素欠乏症事故および硫化水素中毒事故は酸素欠乏症等防止規則に従って基本的な防止措置を着実に実施していれば防ぐことができた事例が多いといえます。

そのため、各現場において責任者が酸素欠乏および硫化水素中毒の危険場所かどうかや対策方法、発生時の対応や二次災害の可能性などのリスクアセスメントを事前に適切に行うことが不可欠です。

また、危険性が高い作業や場所は、リスクに応じた対策や従事する労働者への教育を実施することが必要です。

硫化水素による酸素欠乏症や硫化水素中毒を防止する方法

前述で述べたように、酸素欠乏症事故および硫化水素中毒事故の人的要因として、酸素濃度等の測定を怠った事例が最多であり、事故が発生する可能性がある各現場においては、勤務を開始する前に適切な方法で酸素濃度計による酸素濃度測定が不可欠です。

酸素濃度計は酸素を採取する方法によって酸素を吸引する「吸引タイプ」と漂っている酸素を長時間に渡って測定する「拡散タイプ」の大きく2種類があります。

まず「吸引タイプ」の酸素濃度計は、工業用酸素濃度計に接続されたチューブから気体を採取し酸素を測定します。

チューブが入る場所であれば測定できるので、配管内やタンクの内部など、狭い場所でも測定可能です。

一方「拡散タイプ」の酸素濃度計はチューブでの気体の採取はできないので配管内などの狭い場所での採取は向いていませんが、工場や実験室、トンネルやマンホールなど広い場所での採取に適しています。

密閉した作業場所で工事など作業する労働者の安全確保のために使用されることもあります。

まとめ:硫化水素の危険性を理解した上で、適切な現場管理を行い事故を防ぐ

労働現場での硫化水素による中毒や酸素欠乏によって毎年死亡者が出る事故が発生しており、場合によっては取り返しのつかない大事故に発展してしまいます。

一方で、事故の人的原因は酸素濃度などの計測を怠った事例が最も多く、適切に対策をすれば防ぐことのできる事故です。

硫化水素自体の発生を完全になくすことは不可能です。

そのため、規定にのっとった酸素濃度の測定などの適切なリスクアセスメントを事前に行い、保護具を装着するなど現場管理を徹底することで硫化水素による事故を未然に防ぎましょう。

 

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