pH計の校正方法は?頻度や重要性、注意点も解説!
pH計をはじめとした計測機器の測定誤差を正す作業のことを校正と言います。
例えばアナログ式のはかりを使っていると0kgの基準が中心からずれてしまうことがありますよね。その時はダイヤルを調節して0kgの基準を中心に直す作業が必要かと思います。これが校正の作業です。
pH計においての校正は、pH標準液を使ってpH測定の基準を記憶させ、pH計の0地点やスパン点と呼ばれる感度を正しく調整することを意味します。
本記事ではpH計の校正方法、頻度や注意点を解説していきます。
正しい校正方法を知り、正確に数値を計測できるようにしてください。
目次
pH計の校正精度とpH計の校正の重要性
一般的にpH値測定精度の不確かさは約0.05pHと言われています。また、pH標準液が原因となっている不確かさは、通常±0.02pHの間といわれています。
長期的に測定していく中で、pH電極の汚れや電極自体の消耗などにより、指示値がずれる場合があります。また、pH電極それぞれにも個体差があり校正をしなければ個体ごとに値が変わってしまうこともあります。
また、校正中に発生した誤差は同じセンサを使って行われるすべての測定に影響してしまい、不正確な標準液は計測全体の測定誤差を大幅に増加させてしまいます。
そのため、正確な測定精度を保っていくためにpH計の正確な校正は重要です。
pH計の値に誤差が出る原因
pH計の値に誤差が出てしまう原因として、一般的に
- ①電極の汚れや劣化
- ②比較電極における液間電位の差
- ③標準液の劣化
の3つが考えられます。
①「電極の汚れや劣化」の対策は、電極の汚れに応じた洗浄です。
それでも指示値の誤差が出てしまう場合は、電極を交換することをおすすめします。
②「比較電極における液間電位の差」は、pH計の内部液であるKClと計測するサンプルの組成が異なる場合に、その間で生じてしまう電位のことです。
③「標準液の劣化」は、ボトルタイプを使用していて開封後の時間経過により劣化してしまう場合に多くみられます。
ボトルタイプは標準液を自分でつくる必要がないことがメリットですが、有効期限が基本的には開封後3ヶ月以内です。
pH3.00〜pH10.01以外のpH標準液は、開封後1ヵ月以内で使い切ることが推奨されています。
一方で、1回で使い切りの粉末タイプは未開封の状態であれば数年先まで保存ができ、時間経過による劣化の心配がありません。
以上から使い切りの粉末タイプは使用頻度が2週間や1ヶ月単位以上の計測頻度が低い方やまた、精度や信頼性を求める方に最適です。
pH計の校正の頻度やタイミング
pH計の測定精度や信頼性を保つために、pH計での計測において使用開始時やpH電極交換時、および使用中でもpH計を校正する必要があります。
校正の頻度は装置の安定性や精度の要件で異なりますが、週に3日以上測定する場合は少なくとも1週間に1回、月に数回測定する場合はその測定日の前日から数えて1ヶ月に1回行うことが推奨されています。
このように使用期間によって校正が必要な頻度は異なるので、測定する期間が定まっていない場合は、初めは1週間に1度など頻繁に校正を行うことから始め、装置の安定性や精度の要件に合わせて、徐々に間隔を長くしていきましょう。
pH計の寿命について
pH計は主に電極の劣化が寿命に大きく関わってきます。
電極の寿命は使用状況や保管方法で大きく変わるため、はっきりとした期間を出すことは難しいのですが、電極を交換するタイミングはpH計を使用した際の使用感である程度見ることができると言われています。
pH計が新品の状態は、pH値6.86の中性りん酸塩pH標準液を測定する際、電源を入れてから標準とされる6.86付近に5秒~10秒で到達します。
一方で劣化している状態では、この値まで到達するまでに30秒以上かかってしまう場合もあります。
丈夫なものは1年経っても正確に使用できるものもありますが、比較的安いものであれば、2回目の校正をしてから3ヶ月ほど経過したら買い替えるのもいいでしょう。
pH計の校正で使用する道具
pH計の校正には「pH標準液」「250ml以上入るガラス製の容器×4」「精製水500ml×2本」「校正するpH計」の4つを用意します。
pH標準液はJISによって6種類が規定されており、それぞれ対応するpH値が異なります。
また、これらのpH値は25℃における値であり、水温によりpH値は上下してしまうため注意が必要です。
そのため、温度補償付きのpH電極を使用している場合は温度調整を25℃にして対応ができますが、温度補償がないpH電極の場合は水温によるpH値のズレを考慮して校正していかなければなりません。
しゅう酸塩pH標準液 | 1.67 |
フタル酸塩pH標準液 | 4.01 |
中性りん酸塩pH標準液 | 6.86 |
りん酸塩pH標準液 | 7.41 |
ほう酸塩pH標準液 | 9.18 |
炭酸塩pH標準液 | 10.02 |
pH計の校正を始める前にすべきこと
pH校正液の保存場所について
まず使用するpH校正液は上質な硬質ガラスやポリエチレン容器に密閉して冷暗所にて保存されているものを使用する必要があります。
長期間保存されていたpH校正液を使用する際には、同じ種類の新しいpH校正液と測定比較し、pH値が同じであることを確認しなければなりません。
電極の傷や汚れを確認する
電極に傷や付着がある場合は電極を交換して、電極が正常なことも確認しましょう。
pH計の校正の順番や方法について
pH校正は以下の順番で行います。校正の正確性を担保するためにpH値を3点測る3点校正をご紹介します。
- ①pH6.86の中性りん酸塩pH標準液を作ります。※作り方は後に記載
- ②pH計の電源を入れてから、中性りん酸塩pH標準液につけて校正します。電極がpH標準液によく触れるようにpH機器をpH標準液の中で2、3回ほど軽く動かしたのち静置させましょう。
- ③校正が終わったらpH計を取り出して精製水ですすいで洗います。すすいだ後はティッシュなどでpH計についている水分もしっかり拭きます。
- ④以上の一連の校正手順を、pH4.0のフタル酸塩pH標準液とpH9.18のほう酸塩pH標準液でも行います。
pH計の校正中に注意するべきポイント
pH計の校正における注意点やポイントについて何点か解説していきます。
- ・校正中のpH計の操作や見方について
- ・pH標準液をなるべくまとめて作り置きしない
- ・校正液は使い捨てで使用する
- ・使用する水が機械部分にかからないよう注意する
校正中のpH計の操作や見方について
pH計を標準液に付ける際は、pH計の蓋を取ってから出てくる部分を半分くらいpH標準液に入れるようにしましょう。
具体的な操作方法は機器によって異なりますので、各取扱説明書に従って操作してください。
pH標準液をなるべくまとめて作り置きしない
使用する精製水は空気中の不純物を取り込む性質があり、大気中に触れるだけでもpH標準液の値は変化してしまいます。そのためpH標準液はまとめて作らずにその都度作るようにしましょう。
時間がないなどでやむを得ない場合は、校正の順番1の段階でpH標準液をまとめて3種類つくったのち、それぞれ素早く校正作業をしていきましょう。
校正液は使い捨てで使用する
一度使用したpH標準液は、電極浸漬による干渉や大気中の二酸化炭素の吸収などでpH値が低下してしまいます。そのため、同じpH校正液を繰り返して使用することはできません。
また、同時に校正中の違う標準液も混ぜないようにしましょう。
計測時はpH標準液を撹拌する
測定する時はpH計にて測定の対象となるpH標準液に浸け静置してしまうと、数値が安定せず検知しづらくなります。そのため、測定中は数値を安定させるために撹拌していきましょう。
使用する水が機械部分にかからないよう注意する
pH計は完全な防水ではないため、測る部分以外に水がかかりすぎないように注意が必要です。
pH計の校正が終わったあとに注意するべきポイント
pH計の校正が終わったあとの、洗浄方法や保管方法について解説します。
pH計の電極を洗浄する
pH電極の洗浄は、それぞれ専用の「pH電極洗浄液」を使用しましょう。
また、最低でも15分間は電極を洗浄液につけて汚れを落としてください。
保存時は電極を保湿して保ち乾燥を防ぐ
正確な測定には電極が常に適度に保湿された状態が必要です。
電極が乾燥していると、測定値に誤差が出てしまう原因の一つになります。
また電極の寿命も縮めてしまいます。
もし計測で使用する予定の電極が乾燥している場合は、できれば一晩浸した後に校正および測定を行うことを推奨します。
急いで校正しないといけない場合も、校正や測定前に電極の先端を保存液に2~3時間ほど、最低でも1時間保存液に浸したのち校正しましょう。
校正や測定が終わった後も電極を精製水ですすいで洗浄してから専用の保存液に一晩浸し、長期保管する場合は、保存液が蒸発・結晶化するため定期的に保存液を補充して、電極の乾燥を防ぐようにしてください。
保存の際の保湿は専用の保存液を使用する
pH計の電極を保管する際には、専用の「電極保存液」に浸しておく必要があります。
水道水や精製水、および純水で電極を保存してしまうと微生物が増殖してしまい、内部液の流出も流出してしまう恐れがあるため注意が必要です。
まとめ:正確な測定のために正しい方法でpH計の校正を行いましょう
pH計で正確な測定精度を保ってpH値を計測していくためにはpH計の校正を行うことが不可欠です。
一方で、校正のための専門液をはじめ道具がたくさんあり、初めて測定や校正を行う人にとっては慣れない部分も多いかと思います。
pH計は精密機器ですので管理が大変かもしれませんが、本記事を参考に校正を正しく行い、しっかり水質管理していきましょう。