非破壊検査のmtとは?仕組みや受講が必要な講習についても解説!
検査の対象物を破壊せずに表面のきずや欠陥が調査可能な非破壊検査には、多くの試験が存在します。
試験ごとに検査方法に違いがあるため、単体ではどのような試験なのかと悩んでしまうこともあるのではないでしょうか。
本記事では非破壊検査の1つである、磁粉探傷試験(mt)について解説していきます。
磁粉探傷試験(mt)の原理や特徴、資格取得のための講習についても解説しているので、貴社における非破壊検査の導入などに参考にしてください。
目次
非破壊検査 磁粉探傷試験(mt)とは
非破壊検査の1つである磁粉探傷試験(mt)とは、強磁性の材料を磁化し表面のきずを確認する試験です。
実際の検査では磁粉剤と呼ばれる磁気に反応する材料を使用し、磁化した材料へ磁粉剤が吸着する仕組みを利用して検査をします。
原理としては磁石に対して砂鉄が吸着するのと同じです。
例えば、きずのない箇所では磁粉が均一に表面へ吸着するのに対し、きずがある箇所ではきずの形に沿って磁粉が吸着するため、溝を形成したような形で磁粉模様が検出されます。
磁石に引き付けられる性質を持つ強磁性の材料に対し磁気を加え、磁化し表面のきずを確認するのが磁粉探傷試験(mt)です。
非破壊検査 磁粉探傷試験(mt)に使用する機器
非破壊検査では、各試験ごとに使用する機器に違いがあります。
磁粉探傷試験(mt)では、磁化ケーブルを使用して試験を行う電源装置から、1台で探傷試験が完結する磁粉探傷装置、その他の付属品まで、様々な機器が用意されているのです。
下記の4つが主な使用機器になります。
- 磁化電源装置
- 磁粉探傷装置
- ブラックライト
- 磁粉剤
磁粉探傷試験(mt)の実施には欠かせない機器であるため、それぞれについて解説していきます。
磁化電源装置
磁化電源装置は試験対象を磁化する際に必要な機器です。
探傷試験の際は磁化電源装置に磁化ケーブルを接続し、試験対象へ磁気を加えることで試験対象を磁化します。
磁化電源装置には単相電源や三相電源など、様々な種類がありますが、試験対象の種類によって選択をしなければなりません。
磁粉探傷試験(mt)を実施する際には、試験対象に応じて磁化電源装置の種類を選択しましょう。
磁粉探傷装置
磁粉探傷装置は磁化処理を行う複数の機器に加え、磁化電源が一体化している機器です。
磁化電源のほかに組み上げられている機器は、磁化コイルや磁化電極、磁粉液タンク、磁粉散布機構、作業台が挙げられます。
磁粉探傷試験に必要な機器が1つにまとめられているのが磁粉探傷装置なので、磁粉探傷試験(mt)が1台の装置で完結できます。
自動車部品用や航空機部品用の磁粉探傷装置も用意されているので、試験対象に合わせた装置を選択しましょう。
ブラックライト
ブラックライトは試験対象に吸着した磁粉剤を照らしてきずを発見するために必要な機器です。
磁化した試験対象に磁粉を吸着させてきずを確認しますが、きずが微細な場合には肉眼での確認ができません。
磁粉は蛍光液が混ぜられていることが多く、暗い場所でブラックライトを照射すると光るため、微細なきずが確認できるのです。
そのため、磁粉探傷試験(mt)においてブラックライトはきずを発見するために必要な機器になります。
磁粉剤
磁粉剤は、試験対象に吸着させきずを確認するための材料です。
磁粉探傷試験(mt)では試験対象を磁化させることで表面のきずを確認しますが、表面に吸着する材料がなければ試験の実施ができません。
そのため、粉末状であり磁石に吸着する性質を持った磁粉が必要です。
また、微細なきずを確認するためにブラックライトを照射した際、発光しなければならないため蛍光液が混ぜられている物もあります。
磁粉剤には粉末タイプの他にスプレータイプや液体タイプも存在するため、試験対象の材質や試験方法に応じて選択すると良いでしょう。
非破壊検査 磁粉探傷試験(mt)の磁化方法
非破壊試験の磁粉探傷試験(mt)では試験対象を磁化させますが、磁化方法にはいくつかの種類があります。
主要な磁化方法は下記の9種類があり、それぞれ符号で表現されます。
磁化方法 | 符号 |
軸通電法 | EA |
プロッド法 | P |
磁束貫通法 | I |
電流貫通法 | B |
隣接電流法 | AC |
極間法(定置法) | FM |
極間法(可搬法) | PM(Y) |
コイル法(固定) | RC |
コイル法(ケーブル) | FC |
それぞれの磁化方法について、以下にて解説していきます。
軸通電法
軸通電法は磁気の発生源となる電極と電極の間に試験対象を挟み込み磁化させる方法です。
符号ではEAと表現されます。
試験対象の表面で検出可能なきずの方向が軸方向であることを覚えておきましょう。
プロッド法
プロッド法は試験対象の表面に2つの電極を押し当てることで磁化させる方法です。
符号ではPと表現されます。
試験対象に対して大きな電流を直接流すことで磁化させるため、電極自体が溶けてしまったり、アークが発生したりして試験対象にきずをつけてしまう可能性があることを覚えておきましょう。
磁束貫通法
磁束貫通法は試験対象に穴が空いている場合、穴へ通した磁性体へ交流磁束を加えることで試験対象を磁化させる方法です。
符号ではIと表現されます。
使用する磁束は交流でなければならないことを覚えておきましょう。
電流貫通法
電流貫通法は筒状の試験対象に対し、穴へ通した導体に電流を流して磁化させる方法です。
符号ではBと表現されます。
表面のきずが確認できる他に、試験対象の内周面のきずも確認できるのが特徴です。
隣接電流法
隣接電流法は複数の電流ケーブルを試験対象の表面に平行に走らせ、電流を流すことで磁化させる方法です。
符号ではACと表現されます。
電流ケーブルが平行に走っているため、検出可能なきずも平行な方向のみであることを覚えておきましょう。
極間法(定置法)
極間法(定置法)は試験対象に対し電磁石を接着させ、試験部位を電磁石の極間に置くことで磁化させる方法です。
符号ではFMと表現されます。
主に試験対象の溶接部などのきずを確認する際に使用される磁化方法です。
極間法(可搬法)
極間法(可搬法)はヨークと呼ばれる交流電磁石で試験対象を挟み込み、磁束を内部に投入して磁化させる方法です。
符号ではPM(Y)と表現されます。
ヨークで試験対象を挟み込んでいるため、鋼板の表面ではなく側面のきずが確認できるのも特徴です。
コイル法(固定)
コイル法(固定)は両端が電極に接続されたコイルの中に試験対象を入れ、コイルが作る磁束によって磁化させる方法です、
符号ではRCと表現されます。
コイルの磁束を利用するため、検出可能なきずは円周方向のものです。
コイル法(ケーブル)
コイル法(ケーブル)は試験対象に対して電流ケーブルをコイルのように巻き付けて通電し、発生した磁束を利用して磁化させる方法です。
符号はFCと表現されます。
コイル法(固定)と同様に、検出可能なきずは円周方向のものです。
非破壊検査 磁粉探傷試験(mt)の特徴
非破壊検査の磁粉探傷試験(mt)には3つの特徴があります。
- 対象物を破壊せず表面もしくは表面直下の調査が可能
- 検出しやすい欠陥の状態に違いがある
- 調査可能な対象物の素材が決まっている
上記の特徴を理解した上で、貴社にて想定している試験対象が磁粉探傷試験(mt)に向いているかどうかを確認してください。
それぞれについて解説していきます。
対象物を破壊せず表面もしくは表面直下の調査が可能
非破壊検査は試験対象を破壊せずに欠陥の有無を確認する検査ですが、磁粉探傷試験(mt)は試験対象の表面の欠陥が調査可能です。
なぜなら、試験対象を磁化し、表面に吸着した磁粉を利用して欠陥の有無を確認する試験だからです。
表面の吸着させた磁粉は物理的に試験対象の内部に入り込むことはできないため、内部欠陥の確認はできません。
しかし、欠陥が溝のような形をしていればかろうじて液状タイプの磁粉が入り込むことはできるので、表面直下の欠陥の確認は可能です。
そのため、磁粉探傷試験(mt)では試験対象の表面もしくは表面直下の欠陥の調査ができます。
欠陥までの深さが測定できない
磁粉探傷試験(mt)では発見した欠陥までの深さが測定できません。
表面に磁粉を吸着させて欠陥の有無を確認しているため、他の非破壊検査とは違い欠陥までの深さが測定できないのです。
磁粉が試験対象の内部まで入り込めないことを考えると、欠陥までの深さが測定できないのが理解できるのではないでしょうか。
あくまで磁粉探傷試験(mt)は試験対象の表面の欠陥を測定する試験であるため、欠陥までの深さが測定できないことを覚えておきましょう。
磁石に吸着できない素材は検査できない
磁粉探傷試験(mt)では磁石に吸着できない素材の試験対象は検査ができません。
試験の方法が試験対象を磁化させることで欠陥の確認するものであるため、磁石に吸着できない素材は磁化できないことから試験ができないのです。
例えば、磁化していない試験対象に磁粉を塗布するのは、磁力のない石で砂鉄を集めるようなものです。
そのため、磁石に吸着できない素材では磁粉探傷試験(mt)が実施できないことを覚えておきましょう。
非破壊検査 磁粉探傷試験(mt)の講習
磁粉探傷試験(mt)のみならず非破壊検査は人間が実施するため、各試験の精度は担当者の技量に大きく左右されてしまいます。
担当者ごとの技量差を埋めるために、一般社団法人 日本非破壊検査協会ではJIS Z2305に基づいて非破壊検査における資格認証を行っているのです。
また、資格認証の他にも技術向上を目的とした各種講習会も実施しており、非破壊検査の試験ごとに求められる技量は変わってくるため、ここでは磁粉探傷試験(mt)の講習について解説していきます。
非破壊試験技術者
磁粉探傷試験(mt)に限らず、非破壊検査を実施する担当者が受けなければならない認証が非破壊試験技術者です。
各種試験ごとに求められる受験資格は異なりますが、すべてに共通する受験資格が2つあります。
- 視力検査で近視や色覚に問題がないこと
- 決められた訓練時間および経験年数を満たしていること
磁粉探傷試験(mt)では必要な訓練時間が16時間であり、経験年数は1ヶ月です。
さらに、非破壊試験技術者には技量や任せられる業務範囲の違いからレベルが1〜3まで用意されており、必要な訓練時間と経験年数にも違いがあります。
MT試験の 要求される時間 |
レベル1 | レベル2 | レベル3 |
訓練時間 | 16時間 | 24時間 | 24時間+8時間(※) |
経験年数 | 1ヶ月 | 3ヶ月 | - |
※ すべての試験に共通する基礎コース8時間の受講が必要
また、実際の試験内容は1次試験が筆記試験、2次試験が実技試験と分けられています。
詳細は日本非破壊検査協会のホームページを参照ください。
技術講習会
技術講習会は初めて非破壊試験技術者の認証試験を受ける人に向け、必要な訓練時間を満たすための講習です。
講習の内容は基本的な知識を身につけるための講義と、実際の試験技術を向上させるために実技に別れた内容になっています。
講習の受講により、試験を受けるために必要な訓練時間が満たされるため、これから貴社で磁粉探傷試験(mt)の実施を考えている場合は、担当者の受講を検討してみてください。
実技講習会
実技講習会は探傷試験の技術向上を目的に、実技のみを行う講習です。
講習が受けられるのは、1次試験の合格者、2次試験の受験者、再認証試験受験者に限定されています。
試験の担当者が存分に練習に取り組める環境が整っていない場合や、探傷技術の向上を図りたい場合は受講を検討してみてください。
まとめ:非破壊試験である磁粉探傷試験(mt)の実施には仕組みの理解と講習の受講が必要
非破壊検査の1つである磁粉探傷試験(mt)は、試験対象が磁化されることによって表面の欠陥を確認する検査です。
実際に磁粉探傷試験(mt)を実施する場合は、複数の磁化方法があるため、試験の仕組みを理解しておかなければなりません。
また、試験対象が磁化できない素材である場合は試験ができないことも覚えておきましょう。
これから磁粉探傷試験(mt)を実施する場合は、日本非破壊検査協会が実施している講習を受講し、非破壊検査技術者の認証を受けてください。