非破壊検査「放射線透過試験(RT)」とは?4つの特徴や注意点を解説!
非破壊検査は、表面や内部きずや欠陥の有無、および劣化を調査する際に検査物を壊さずに検査できる方法です。橋梁やプラント、鉄道や飛行機をはじめとした大型の設備や機械、および製造業における検査の方法として、活用されています。
非破壊検査の最大の特徴は、検査が終わった対象物がそのまま使用できることです。対象物を壊さないので検査後も長期的に運用する設備や機械の検査で広く活用されています。
きずが発見された場合も修理が必要な所のみを修繕できるので、廃棄物を削減でき、資源を有効活用できます。
本記事では非破壊検査のひとつ「放射線透過試験(RT)」について特徴や原理、注意点などを解説していきます。
目次
非破壊検査「放射線透過試験(RT)」の原理
本記事のテーマ「非破壊検査のRT」とは放射線透過検査のことで、RTはRadiographic Testingの略称です。
RTは非破壊検査の手法の一つで、試験体に放射線を透過させて内部の状態を撮影像としてフィルムに記録して検査します。
X線やγ線など放射線が物質を透過する性質と、放射線が写真フィルムを感光する特性を使い検査します。
検査物を透過すると放射線量が減少しますが一方で、試験体の中に空洞があるとが減少しません。このような透過した放射線の量の差が写真フィルムに像として現れることで内部のきずや欠陥を調べることができます。
非破壊検査「放射線透過試験(RT)」の4つの特徴
試験結果が視覚的にわかりやすい
試験結果がフィルムに画像として投影されるので、数値などで結果が出る試験と比較して結果が視覚的にわかりやすく、改善しなければならない箇所がわかりやすいです。
保存性や記録性に優れている
試験結果をフィルムに記録でき、保存方法に気をつければ消える可能性が少ないので、記録性にも優れています。
また、フィルム自体の幅が薄くかさばらないので、ファイリングなどで直射日光などに注意しながら保存すれば長期間の記録も連続して保存できるなど保存性にも優れています。
素材を問わずに検査できる
金属や鉄鋼性のものしか検出できない検査もある中で、放射線透過試験(RT)は金属・非金属や鉄鋼かどうかを問わずにきずや欠陥が検出できるので、検査できる素材の種類が多いのも魅力です。
放射線に対して進行方向のきずが検出しやすい
放射線の進行方向に奥行きのあるきずを検出しやすいことが特徴です。
放射線透過試験(RT)の注意点
結果判明に時間がかかる
一方で、二次元の情報になるのできずの深さ情報が得られないほか、フィルムへの写真処理が必要なので、結果判明に時間がかかります。そのため、緊急時の即時性が求められる検査には不向きであると言えます。
比重が高いと検査のコストや難易度が上がる。
放射線透過試験(RT)は素材を問わずに検査できるのが魅力ですが、検査物の比重が高いと放射線の透過能力が低下するので、検査の難易度は上がってしまいます。
また、焦点寸法とエネルギー量などの要素で対象物でⅩ線発生器の種類を変える必要があります。
比重が大きく分厚い対象物を検査する際に、発生器の電圧が大きくなると遮蔽室が必要になり、検査コストが上がるにも関わらず検出性能が低下してしまいます。
開口幅が小さい面状きずや比重差が小さい異物は検出しにくい
割れなど、開口幅が小さい面状きずや比重差が小さい異物は検出が難しい傾向にあります。
フィルム撮影での検出なので拡大撮影すれば小さなきずや形状を判定する事自体は可能ですが、コントラスト差があまりないことも多く、結果がわかりにくくなることもあります。
有資格者による安全管理が不可欠
放射線を使用するので、遮蔽ボックス内で撮影する以外は被爆の危険性があります。そのため、取り扱いには法令に基づいた有資格者による安全管理が必要です。
非破壊検査「放射線透過試験(RT)」の用途
主に発電設備や、石油化学施設、土木建築などの大型施設や建物の内部欠損の有無を調べる際に多く使用されます。
また、表面や内部の欠陥の検出や厚さの測定、などにも使用されることが多いです。
製造業において、素材や溶接部の検査、および電子部品や基板の検査などにも利用されています。
非破壊検査「放射線透過試験(RT)」の検査方法
①試験体の外側に放射線装置を設置する。
通常は検査する試験体から50cmから100cmほど離して設置することが多いです。
②フィルムを装填したカセットを試験体の背後に密着させて設置する。
放射線を受け取り、検査結果を示すフィルムを試験体の背後に密着させます。
③放射線を照射して適性な時間の露出をフィルムに与えて記録する。
この放射線の適正な照射時間は試験体の厚みや素材によっても変わってくるので、照射時間の判断には高度な専門性が必要です。
④フィルムを暗室で現像処理する。
フィルム写真の現像のように、一切光が入らない真っ暗な部屋「暗室」にて現像作業を行います。
現像中に光が少しでも入ってしまうとうまく現像ができないので注意が必要です。
⑤観察器でフィルムの濃淡模様から内在する欠陥を検出する。
観察機はシャウカステンと呼ばれる蛍光灯などの発光機器を備えたディスプレイで、医療現場などでもよく使用されているものです。欠陥は黒い像として検出されます。
非破壊検査「放射線透過試験(RT)」の費用について
放射線透過検査の費用は委託する場合、まず撮影の費用が1件あたり20,000円から35,000円かかります。これにプラスして写真フィルム代がかかり、安ければ1枚1,500円程度で済みますが、比較的高価である鉄筋コンクリートだと10,000円ほどかかるする場合もあります。
撮影の基本料金をベースに、撮影する枚数にしたがってフィルム代が増えていく場合が多いです。
検査する物質によっては特殊撮影料が必要な場合があるほか、検査の報告書の作成などもオプションとして費用がかかる場合があります。また、100枚以上など、大量の撮影をする場合は数量単価を割り引くサービスをしている会社もあります。
放射線透過試験(RT)を実施するために必要な資格
放射線透過試験(RT)を行うためには国家資格である「エックス線作業主任者」の資格が必要です。
「エックス線作業主任者」は資格を持っていない人は、法令で定められた業務をができない「業務独占資格」であり、一定の業務を行う場合は、この有資格者を必ず置かなければならない「必置資格」でもあります。
エックス線作業主任者の国家試験内容について
この試験は公益財団法人 安全衛生技術試験協会が開催しており、試験科目は「エックス線の管理に関する知識」「関係法令」「エックス線の測定に関する知識」「エックス線の生体に与える影響に関する知識」の4科目です。
それぞれ10問ずつ、合計40問の100点満点試験です。
配点は「エックス線の管理に関する知識」が30点、「関係法令」が20点、「エックス線の測定に関する知識」が25点、「エックス線の生体に与える影響に関する知識」が25点で、試験時間は4時間です。
試験資格および受験料について
受験資格はなく、誰でも受験できます。しかし、満18歳未満の人は合格しても18歳になるまで免許を受け取ることができません。
受験料は令和4年現在で6800円です。以前より受験料は下がっており、今後も下がる可能性もあります。
免除科目について
第二種放射線取扱主任者免状(一般)を持っている人は「エックス線の測定に関する知識」「エックス線の生体に与える影響に関する知識」の2科目が免除されます。
また、ガンマ線透過写真撮影作業主任者に合格した人は「エックス線の生体に与える影響に関する知識」の1科目が免除されます。
いずれの場合も科目の免除を受けるためには免状や合格通知書の写しが必要であり、書類による手続きが必要なのでご注意ください。
合格基準および合格難易度について
合格率は50%台程度で、資格試験ガイドを参考にすると、難易度は「普通」から「やや難しい」程度と考えられます。
またこの合格率は、科目免除者もひっくるめての値となっているので、免除制度を利用していない人だけで見るともう少し合格率は下がる可能性があります。
合格発表について
合格発表は、試験から1週間後に行われます。合否は「公益財団法人 安全衛生技術試験協会」のホームページの「最新の合格者」から見ることができます。合格者の受験番号のみが表示されます。
また、正式な合格発表はハガキによる郵送です。これは試験の合否に関わらず、試験日から1週間後に発送されます。
不合格だった場合は各科目の点数が記載されていますので、次回の受験対策に役立てることができます。
受験場所について
試験会場は全国に7箇所あり、受験者は住所に関係なく、どの会場でも受験できます。以下が全国の受験会場のリストです。
北海道安全衛生技術センター(北海道恵庭市)
東北安全衛生技術センター(宮城県岩沼市)
関東安全衛生技術センター(千葉県市原市)
中部安全衛生技術センター(愛知県東海市)
近畿安全衛生技術センター(兵庫県加古川市)
中国四国安全衛生技術センター(広島県福山市)
九州安全衛生技術センター(福岡県久留米市)
また、上記の試験会場以外にも、全国各地で1年に1回、出張試験が行われます。詳しくは、安全衛生技術試験協会ホームページをご覧ください。
まとめ:放射線透過試験(RT)の特徴を把握して有効に活用しよう
放射線透過試験は他の非破壊検査の中でも対応できる素材の種類が多く、記録性や保存性にも優れているので業界を超えて幅広く活用されている検査方法の一つです。
一方で、結果判明に時間が必要であったり、比重が高いと検査のコストや難易度が上がるなどのデメリットもあります。また、検査には国家資格である「エックス線作業主任者」の資格者が不可欠です。
そのため、放射線透過試験(RT)を検討する際は検査の対象物の素材だけではなく、その試験結果を記録していきたいか、検査判明に即時性が必要かなど、さまざまな角度から検討していくといいでしょう。
また、検査を継続的に行う場合は、エックス線作業主任者の資格取得も検討することをおすすめします。