非破壊検査のメリット・デメリット 検査方法についても解説!
検査対象物を壊したり傷つけたりすることなく、表面や内部のきずなど状態を検査できる非破壊検査。
検査対象を壊さずに検査ができるため廃棄物を削減できるだけでなく、検査後の運用も可能です。
一方で、分解して調べる検査より検出できる欠陥やきずに制限がある場合もあります。
また、各検査方法によっても得意な材質や欠陥の種類に差があります。
今回は非破壊検査のメリットとデメリットや各検査方法をご紹介していきます。
目次
非破壊検査のメリット
検査後も製品を使用できる
非破壊検査のメリットは対象物をそのまま使用できる点です。
検査の際に対象物を切断・分解をすると、再使用はできません。
貴重なサンプルを失うことで、検査用のサンプルを余分に用意する必要があります。
その点、非破壊検査では検査対象物を検査後も利用できますので、同じサンプルの長期的な使用や、検査物を製品として出荷できます。
そのため、長時間運用が必要な大型の運送機器やプラント設備のほか製造業では品質の保証や技術改良にも用いられています。
環境にやさしい
もし非破壊検査においてきずや欠陥を検出した場合は、構造物の修繕が必要な場所のみを補修・修理できます。
そのため、検査対象物が使えなくなり廃棄になってしまう検査と比較して、廃棄物排出を削減できるため資源を効率的に活用可能です。
環境問題への関心も企業の価値の一つとなっており、SDGsも国をあげて取り組む姿勢が示されている昨今、非破壊検査を行うことで環境問題への取り組みもできます。
事故予防によるリスクやコストの削減
非破壊検査では外見からはわからない重大な欠陥を発見し、事故を未然に防止できます。
事故は生産が止まるなど損害が発生しますし、重大な事故は人的被害が発生するなど、多大なコストがかかります。
そのような事故を未然に防止することで、あらゆるリスクの軽減やコストの削減が期待できる検査です。
そのため、欠陥が命に関わる重要な事故につながる航空機や鉄道などの大型車両、およびジェットコースターなどのアミューズメントパークのアトラクションの保守点検などにも用いられています。
非破壊検査のデメリット
検査の不確実性
非破壊検査は欠陥やきずをフィルムに反射したり浮き上がらせたりして間接的に推測する検査方法です。
そのため、検査対象を切断・分解するなどして検査するのと比較すると、不確実性が残ります。
特にフィルムに写したりなど技術が必要な場合は、検査する人によって傷がうまく検出できないこともあります。
適用可能な物質や形状・欠陥が限られる
検査の種類によって、適用できる物質や形状が限られる場合があります。
例えば磁力を使用する検査であれば磁気に反応しない物質は検査できません。
また、表面のきずは検査できても内部のきずは検出できない場合などもあります。
水没が必要がある場合がある
超音波での非破壊検査など一部の検査では、検査の際に水没が必要な検査があります。
そのため、水没に弱い電子部品などは検査ができない場合があります。
検査方法など非破壊検査への知識が必要
非破壊検査の種類によっては検査できない素材やきずの種類などが存在します。
そのため非破壊検査の種類を選ぶには、検査の目的や検査物の材質・形状を考慮しなければなりません。
検出できるきずも検査によって異なるので、存在する欠陥の状態を予測して検査を行う必要があります。
そのため検査方法を選別する段階から、事前に発生する可能性のある事故や欠陥の性質などを予測できる知識や非破壊検査についての知識、および経験が必要です。
専門的な機械や機材、液体などを使用するため検査の正しい手順もしっかり学んだ方による検査も必要になります。
そのため、自社で非破壊検査を行う場合は、一般社団法人 日本非破壊検査協会の資格を受験したり、検査機器のトレーニングを積むなどの人材教育が必要不可欠です。
非破壊検査の方法について
磁粉探傷試験
磁粉探傷試験は、MTまたはMPTとも呼ばれ、磁気を利用して、3mm程度までの表面きずや表面近傍のきずを検出できる検査です。
割れなどの欠陥が予想される検査対象物を強磁性体を磁石にして、表面に磁粉を散布します。
傷の部分に磁粉が吸着され、表面の傷や割れが目視できる模様として可視化されます。
検出できる欠陥の深さが数ミクロン以上ととても感度がよく、複雑な形状の部位でも検査可能です。
一方で磁気を使用した検査のため、鉄鋼などの強磁性材料の表面や表面のきずのみに使用可能で非磁性体には適用できません。
放射線透過試験
放射線透過試験は、放射線が物質を透過してフィルムを感光させる性質を利用して、内部きずの検出や内部構造をX線フィルムに投影する検査です。
内部きずの検出や厚さ測定のほか、食品の異物検査などに使用されています。医療のレントゲン写真のように、内部の状態を写真で把握でき、保存性や記録性も持ち合わせています。
金属・非金属を問わずに適用できるほか、放射線の進行方向に奥行きのあるきずを検出しやすいことが特徴です。
一方で二次元情報のためきずなどの深さ情報が得られないほか、結果判明に時間がかかります。
また放射線を使用するので、取り扱いには法令に基づく有資格者による安全管理が必要です。
超音波探傷検査
超音波探傷検査は、超音波を試験体内部に伝播させて、反射した超音波の強さと反射する範囲を元に、検査物のきずの大きさや形状を推定する検査です。 内部のきずや厚さの測定などに使用されます。
超音波の発生には「探触子」というセンサーを使用し、探触子を検査対象に当てて超音波を発生させることで、試験体の内部を伝搬します。
鋼や樹脂などさまざまな材質に適用できるほか、溶接部検査や接着・剥離検査などの検査ができ、また比較的安全に検査可能です。
そのため製鉄や航空宇宙やエネルギー関係などの分野で材料内部の品質確認に活用されています。
一方で複雑な検査には不向きですし、検査の際には水没させる必要もあります。
赤外線検査
赤外線検査は、赤外線およびサーモグラフィーを利用して温度変化を検知して、欠陥や構造などを可視化する検査です。
非接触で外表面の異温部を検出できるので効率よく検査ができるほか、温度分布結果を画像で確認できます。
一方で、特に屋外の検査対象の場合は周囲の赤外線反射や日陰により検査が困難な場合があります。
日中のみや日没後など検査ができる時間が制限される場合もあるので注意が必要です。
ビルや橋梁などの屋外の構造物のコンクリート剥離検査などに使用されているほか、配電盤などの異常温度の検査などにも活用されています。
また、保冷タンクなどの保温材劣化の調査にも使用されます。
過電流探傷検査
過電流探傷検査は、交流を流したコイルを試験体に近づけた際に生じる渦電流の変化を利用した検査です。
交流電流が発生しているコイルを、検査対象の表面に近づけ、表面に生じる渦電流よって欠陥やきずなどを調べます。
金属表面の割れといったきずの検出能力に優れた試験方法です。また、材料判別や熱処理判定、および導電率などの測定にも適用ができます。
強磁性鋼や鋳鍛鋼材、および鋼溶接部などは検査が可能ですが一方で非磁性材料は検査ができません。
熱交換器や航空や自動車の部品、およびワイヤーなどの検査に使用されています。
浸透探傷検査
浸透探傷検査は、検査液を試験対象に塗布して液体の毛細管現象によって、試験体表面に存在するきずやクラックなどを検出する検査です。
きずの中に検査液浸透させた後に浸透液を除去して残った浸透液を、現像剤で吸出して微細なきずを検出します。
実際のきず寸法よりも拡大したきず模様が形成される為、小さなのきずも目視確認が可能です。
金属・非金属を問わずに表面に開口したきずであれば検出できます。
一方で内部の欠陥やきず、クラックなどは検出できません。
目視試験
目視試験は、目で見て物体の表面の傷や腐食をはじめとした検査対象の状況を判断する最もシンプルかつ基本的な検査です。
表面の状態やきずを手早く簡単に調べることができる直接目視での検査や、CCDカメラを使った間接目視で検査対象物の表面の異常を検出する検査があります。
また、直視が困難な場合は工業用内視鏡を使用することもあります。
直接目視での検査は検査員がいればすぐに検査ができるので手軽ではありますが、ヒューマンエラーが発生しやすく、目視検査を行える人材教育にはコストがかかるので自社で検査員を育てる際はコストが大きいです。
画像によるセンサーでの目視検査は直接目視よりも手間や初期費用はかかりますが、ヒューマンエラーの発生や判定のばらつきを防ぐだけでなく、人員が確保できます。
また検査をより高速にできるので、品質保証を行いながらも生産効率も高められます。
スンプ法試験
スンプ法試験は、試験対象の表面をアセチルセルロースのフィルムに転写して顕微鏡で観察する検査方法で、組織や亀裂の観察や破損した状況などを検査できます。
フィルムに転写したレプリカによる検査ですので、構造物から検査用の試料を採取する必要がなく、短期間での検査が可能です。
金属組織の観察や金属の変化に伴う劣化などの検査に向いていますが、内部の検査には不向きです。
非破壊検査のメリット・デメリットを把握した上で使い分けよう
以上のように、一口に非破壊検査と言ってもさまざまな方法があり、それぞれに得意とする材質や欠陥の種類があります。
また検査によって、水没が必要だったり有資格者による検査が必要なものもあります。
また、検査を行うのにも専門的な知識や技術が必要なので、特に重要なものについては専門業者に頼むことが必要です。
そのため、それぞれのメリットやデメリットを頭に入れた上で、適切な検査方法を選ぶことが大切です。